高圧下での物性

 関谷研究室では、様々な材料の特異的な物性とその構造の相関に興味があり、ダイヤモンドアンビルを用いた高圧力下の物性測定などの研究を行っています。

■ anataseの高圧誘起相転移

図 anatase単結晶の高圧下ラマンスペクトル

 化学輸送法での育成したanatase型二酸化チタンの単結晶の圧力誘起構造相転移の様子をラマンスペクトルにより明らかにしました。 anatase型二酸化チタンは、空間群I41/amdに属し、単位格子に4つのTiO2ユニットを含んでいます。 因子群解析は以下のような基準振動の存在を示しています。
Γ=1A1g+1A2u+2B1g+1B2u+3Eg+2Eu
これらのうち、A1g、B1g、Egのモードがラマン活性です。 室温、常圧では以下に示すような位置に観測されています。

  • 638.6 cm-1 Eg
  • 515.3 cm-1 B1g+A1g
  • 396.6 cm-1 B1g
  • 197.2 cm-1 Eg
  • 144.5 cm-1 Eg
高圧を加えた際のスペクトルの変化を右図に示しました。 常圧で197.2 cm-1に観測されたEgモードのピークは、圧力の増加に伴い低波数側へシフト(ソフトニング)しましたが、他のピークは高波数側へシフトしました。 4.3GPa付近まではスペクトル形状に大きな変化は観測できませんが、4.3GPaになると新たなピークが多数観測され、相転移が始まったことを示しています。 圧力の増加とともに新しいピークの強度は増加しますが、4.6GPaになるとスペクトルの形状における変化はなくなり、anataseに対応するピークが消滅していることから、相転移が終了したことが判りました。 この相転移は、不可逆で、α-PbO2型の構造を有する高圧相となります。 ソフトニングしたEgモードの振動が、この相転移に深く関係することが考えられます。

■高圧力下のフォトクロミズム

Fig.1 高圧力下の光異性化

 分子間相互作用の大きさにより、二つの準安定状態を持つ分子性結晶が光誘起相転移と呼ばれる集団的かつ協力的な異性化をおこす可能性が理論的に示されていました。 そこで二つの基底状態を持つフォトクロミック化合物の単結晶に注目しました。 このフリルフルギド分子は、紫外域に吸収帯を持つ無色の開環体(E-form)、可視域に吸収帯を持つ赤色の閉環体(C-form)が存在します。 二つの異性体はいずれも室温、常圧において安定で、光によってのみ異性化がおこるため、本研究に適していると考えました。 また、分子性結晶では分子間の相互作用が分子内の結合力よりはるかに弱いので、高圧力を加える事によって分子間距離を変化させ、分子間相互作用の強さを制御する事が期待できます。 そこで、フリルフルギド単結晶に高圧力を加え、分子間相互作用の強さを操作し、その環境下で高圧力が異性化に及ぼす影響を調査することで光誘起相転移の実現を目指しました。
 フリルフルギドのE-form単結晶(100×100×50μm3)を試料として、圧力媒体にはフロリナート70と77の1:1混合液を用いました。 異性化のための光源には、LED(375nm、513nm)を用いて光照射を行いています。

Fig.2 異性化した分子の割合

 フリルフルギド単結晶のフォトクロミズムに対する高圧力効果を調査するため、2.5GPaの圧力下でE-form単結晶に紫外光照射を行い、積分照射時間ごとに測定した吸収スペクトルをFig. 1 に示しました。 紫外光照射によって500~700nm付近の吸収帯が増加したことより、E-formからC-formへの異性化(フォトクロミズム)が確認できます。 紫外光照射時間とC-formの吸収帯面積の増加分S(t)とし、このS(t)が試料中のC-form分子数Nc(t)に比例するとして、紫外光照射時間tにおけるサンプル中の全分子数Nc(∞)に対するC-form分子数の割合Nc(t)/Nc(∞)=S(t)/S(∞)を、Fig. 2 にプロットしました。 これより、C-form分子数の割合は一定の傾きで増加した後、Nc(t)/Nc(∞)=0.3付近で傾きが拡大する閾値が確認できました。 これは、はじめ紫外光照射によって単結晶中のE-form分子が吸収した光子数に比例してE→C-form異性化するという、フォトクロミズムが起こり、その後単結晶中の約30%の分子がC-formに異性化すると、高圧力によって強められた分子間相互作用によってC-form分子に隣接したE-form分子が不安定な状態になり、追加の光子を吸収することなくE-formからC-formへの異性化が起こると考えることで、説明が可能です。 この結果、吸収された光子数から期待される以上にE-form分子がC-form分子に異性化するため、異性化の割合が増大したと考えています。 このような閾値は、分子間相互作用がない溶液中の単分散分子で同様の測定を行った場合では閾値が観測できなかったことから、分子間相互作用の影響は明らかといえます。
 また、常圧力下、1.0、2.0、3.0、5.0GPaにおいても同様の測定を行ったところ、1.0GPa以上において異性化の量子収率が拡大する閾値が現れ、このときの閾値は3.0GPaまでは圧力の増加とともに減少することが明らかになりました。 これは、圧力の増加による分子間相互作用の増加によるものと考えています。 また、5.0GPaでは一部のE-formがC-formへの圧力誘起異性化を起こしており、光による異性化が困難な圧力領域になったと考えています。
 以上の考えに基づけば、適当な圧力を加えることで、光異性化を増大させることに成功したが、異性化増大の効果は限定的であることが推測されます。

ダイヤモンドアンビルセル

ダイヤモンドアンビルセル

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